先日,A社様で,「技術士受験対策:わかりやすい答案の書き方」の講習会を実施させていただきました。終了後,社内食堂で,講習会に出席された方とビールを飲みながら技術士の受験対策などの話をしました。
その中で,私が「最近漢字が書けなくなりました」と切り出したところ,他の方からも「私も同じです」のような発言がありました。この「漢字が書けなくなった」ということは仕事関係の方だけではなく私の友人も話していました。
漢字が書けなくなった原因は,ワードプロセッサー(通称ワープロ)やパソコンの普及だと思います。
私が大学を卒業して会社に入社したときにはワープロもパソコンもありませんでした。
当然,文書,例えば報告書,は手書きです。報告書は青焼きで提出したので,青焼きができる紙に手書きで報告書の原稿を書きました。また,手書きなので漢字がわからないときには必ず辞典でそれを調べました。そのため,会社の机の上に辞典を置いていました。
現在は,手書きで文書を書く方は極めて少ないと思います。ほとんどの方が,パソコンのソフト,例えば,ワードやエクセルあるいは一太郎を使って文書を書いていると思います。
パソコンのソフトを使って文書,具体的には文章,を書くと,平仮名で書いた単語を漢字に変換してくれます。このブログの原稿もワードを使って書きましたが,平仮名を自動的に漢字に変換してくれます。「ぶんしょう」とキーボードに打ち込むと自動的に「文章」という漢字に変換してくれます。
また,これらのソフトには辞書機能があります。
例えば,「極めて遺憾に思う」という文を書く場合を考えます。この「いかん」という漢字がわからないときには,キーボードで「いかん」と入力すれば複数の同音異義語が出てきて,その中から「遺憾」を選べば「極めて遺憾に思う」という文が書けます。
このような自動変換は便利ですが,その反面,弊害もあります。
それは,漢字が書けなくなったことです。文章を手書きで書くことがなくなったため,漢字をどんどん忘れているように思います。手書きの場合には当たり前に書けた漢字も書けなくなりました。先日,知人に手書きで手紙を書きましたが,「アレッ? この単語の漢字が書けない」というありさまです。
辞書機能も便利ですが,その反面,弊害もあります。それは,漢字を記憶しにくくなったことです。
手書きの場合,「いかん」という漢字がわからなければ,辞典で「いかん」を調べ「遺憾」と確認してからこれを手で紙に書きます。
しかし,パソコンの場合,キーボードで「いかん」と入力したあと漢字を確認して「enter」キーを押すだけです。「遺憾」という漢字を目だけで確認するのと「遺憾」という漢字を手で書くのでは,「遺憾」という漢字を記憶するうえで大きな違いがあります。手で書くほうが明らかに漢字を記憶できます。
4月26日のブログで書いたように,手で書くことで脳が活発に活動するのかもしれません(こちらを参照してください)。
また,辞典で漢字を調べると,その漢字を覚えるだけではなくその意味を学ぶことができます。例えば,「遺憾」の意味は,「思い通りでなく残念なこと。残り惜しく思うこと。(岩波国語辞典第五版)」です。パソコンの画面上で「遺憾」という漢字を見るだけではその意味が確認できません。辞典で調べればその意味が確認できます。
余談ですが・・・
最近,不祥事を起こした会社の代表や役員が「極めて遺憾に思います」と発言することが多々あります。でも,「遺憾」の意味を考えればこの発言はおかしいと思います。
自分の会社が起こした不祥事に対して「思い通りでなく残念なこと。残り惜しく思うこと」と発言していることになります。これでは,この発言は,不祥事に対する当事者意識がないように聞こえます。会社の不祥事がまるで他人事のようです。「(極めて)遺憾に思います」は,謝罪の言葉ではないと思うのですが・・・・・。
漢字が書けないのはやはり情けないです。「漢字を忘れること」を少しでも食い止めるような工夫を考えたいと思います。